映画「ロボコン」聖戦記

監督・脚本:古厩智之

製作:富山省吾(東宝映画) 企画協力:高等専門学校協会連合会/NHK

撮影:清久素延 美術:金勝浩一 音楽:パシフィック231

エンディングテーマ:「Saturday Night」Wack Wack Rhythm Band+こずえ鈴

主演:長澤まさみ 小栗旬 伊藤淳史 塚本高史/荒川良々 吉田日出子 うじきつよし 平泉成/須藤理彩 鈴木一真/全国高専生



「ロボコン」というのは「がんばれロボコン」のことではなく「ロボットコンテスト」の略で、毎年全国の高専学校が決められたお題に基づいて各校アイデアしぼって覇を競うという理数系の甲子園と称される大会である。これが予告編で流れたとき、私はやれやれまたアイドル映画かよ、けッと思った。煽り文句も「ピンポン」「ウォーターボーイズ」に続く青春映画という感じで、主演で目に付いたのはチビノリダー(伊藤淳史)くらいで、まあこいつが出るなら観ようかなーと思ってたら監督脚本が古厩智之ではないか。今も思い出される「まぶだち」の舞台挨拶……あの兄ちゃんがついにメジャー映画撮ったのか……と感慨深く、これは必見と期待して臨んだ鑑賞二時間後に私はとてつもない幸福感に包まれていた。(以下ネタバレ多数。近くの劇場でこの映画が上映されていたならば今すぐに観に行け!)

 こんな感激は「がんばっていきまっしょい」以来かな。私はすっかり映画「ロボコン」漬けであり、サントラ聴きっぱなしであるんだが、まあしかし、感動に程度の差はあれ、娯楽作品としてもアイドル映画としても青春映画としても、そして古厩監督作品としての品をも崩すことなく(古厩作品は「まぶだち」しか観てないので偉そうな事は言えないが、淡々と地味でありながらじんわりと観客を刺激する登場人物の感情がときに痛々しくときに生々しくときに清々しいのだ)、物語の基本を当然踏まえつつ地味なロボコン大会の模様を神秘的に演出してしまったのであるから感嘆のほかない。
 物語の発端はこんな感じ。おちこぼれ生徒の里美(長澤まさみ)は、担任の図師先生(鈴木一真)の一ケ月居残り勉強の代償としてロボコンへの参加を余儀なくされる。優秀闊達な第一ロボット部に対し、活気のない第二ロボット部に連れて来られた里美は、四谷部長(伊藤淳史)、設計の航一(小栗旬)、さぼり屋の竹内(塚本高史)とともに、いきなりドライバー(ロボットを操作する者)として地区予選に出場することになる。競技内容は、3つの円柱上のスペースに自チームの箱をより高く組み上げ、その高さによってスペースの権利(得点)を競い合うというもの。スペースは箱を二つ乗せられる程度の面積で、相手の箱を落とすと相手の得点になってしまう。多くのスペースにいかに早くいかに高く箱を積み上げるられるかってところか。ところかっていうのは、競技そのものはもちろんロボコンの精神には正しい答えがない、ていうのがあって、だからあくまでも勝つための基本論理みたいなもの。予選に臨む里美たちのロボットは高く組み上げることに重点を置いた三段一気立て可能なマシン。だが相手は四段以上の高さにまで箱を持ち上げることが出来るマシンであっさり予選敗退(予選優勝は第一ロボット部。この映画は少年漫画の伝統をも押さえているのだ。もうこの時点で最大の敵は第一だとわかるし、こいつらとの戦いが最大の山場なのだなとも予想がつく)……ところがマシンの機構の奇抜さが評価されて、全国大会出場に推薦されることになる、里美たちの本気の戦いがここからはじまるのだ。
 映画の流れ自体は静かである。地味で淡々としているところは「まぶだち」と一緒。感動を扇情するような演出ははっきりいって、ない。当然派手なカメラワークもない、音楽も落ち着いたまま。引きの絵が多く人物のアップはない、あったとしても胸から上が一番のよりかもしれない。とにかく人物の挙措と周りの空気感を大事にフィルムに焼き付けているのである。丁寧で真面目なつくりがたまらない魅力なのだ。といいつつもしっかりと迫力ある映像が次々と思い出される。CGもない、奇抜さもない、自然に自然。主人公達の感情はなんの色も付けられずにそのまんま観客の頭に飛び込んでくる。だから煽らずとも彼らの思いが見るものの心を打って止まない。
 物語の基本というか、青春映画ならあるだろう演出が主人公達の成長ぶりだけど、この映画でも当然ある。冒頭の里美の口を半開きにしただらしない顔とラストの笑顔の対比、無口で無表情な航一が見せた「ありがとう」、自信なくて人の言うことばかり聞いておどおどしてた部長が自ら将来を決断し、竹内は最後までやりぬく根性と気合入ったリーゼント頭を手に入れる。特に里美の笑顔が素晴らしい。正直全然印象ない子なんだ、長澤まさみって。「クロスファイア」とか「黄泉がえり」に出てたってんだけど、そういえばいたなーくらいで、言われるまでわからない有様。ところがロボコンの彼女はどうだろう、この映画のポスターの彼女って絶対美人な顔にしようとか、かわいくしようとか全然そんな気がない、ほんとにアイドルかよこいつってくらいにブスっとしていやがる。冒頭からこんな顔ではじまるんだもん、びっくり。「いやだー」とか言ってだらしなさ全開、やる気なしが傍からもわかるおちこぼれ。それが父親(うじきつよし)譲りの根性からか、予選敗退に一番悔しがってあたりをうろつく、このときもふくれっ面。それだけに彼女の笑顔がだんだん増えていく展開が、また違う方向で清々しいのだ。それから伊藤淳史、チビノリに触れないわけにはいくまい。こいつほんとに顔変わんないけど、演技はめちゃくちゃ上手い。というか主演四人で一番達者かもしれん。他の三人は地で演じている感じだが、こいつの場合は本当の自分は別にいて、きっちりと四谷部長を演じている感じである。自信がなくていつも自分の意見を言えないんだが、言いたいけど言えない表情が絶妙なんだ。予選前のミィーティングで珍しくカメラがよって部長がアップにされ、苛立ってるんだか弱弱しいんだかわかんない顔をする。何者だ、こいつ、すげえ。
 で、最も興奮するのが試合シーン。第一ロボット部の対決はどこだ? 少年漫画の伝統と前述したが、詳しく言えばスポーツ漫画の伝統・ライバルチームとは準決勝で対決する、が映画でも用いられる。また、実際にロボコンをテレビで見たことがある人はわかると思うんだけど、たまにしょぼい試合があるんだ、盛り上がらない低レベルな戦いと言っては失礼なんだが、そういう試合が1回戦で行われる。相手が自滅して終わりって感じの試合。2回戦は勝負にこだわらない相手で、試合には勝ったけど試合の観客は全て相手チームのユニークなロボットに視線が向けられる。ここで試合に勝つことばかりにこだわっていた里美たちは衝撃を受けてしまう。「先生、私勝ちたいんです」と言っていた里美が思い出された。勝つだけじゃない、なんかこう、勝利の美学のようなものがこのあたりから出てくる。3回戦がとってつけたようにスペースへの侵入を妨害するロボットなのだ、わかりやすいねーこの展開。ここはチームワークで妨害を交わし、この試合から私の興奮は涙腺を突っつき始めやがる。たんに年とっただけだけれど、もうがんばれがんばれって感じ、心の中で拍手しまくり。
 さあそしてあなた、準決勝ですよ。第一ロボット部部長(荒川良々)が自信たっぷりの顔で送り出す高速旋回・高速移動・高速の限りを尽くした「FLEX」と第二ロボット部の総力で作り上げた最大8段一気立て可能な胴長ロボット「BOXフンド」の対決! 神はここにいたね。待ってましたとばかりに。神を呼んだのは監督の演出か、主演者の熱意か、スタッフの意気込みか、わからないけど、私は……全ての観客は、奇跡を目の当たりにした。そして決勝戦、最大15段立てを可能とする怪物「FIRE WALL」との死闘、まさに死闘、さらに再び起こる奇跡はスクリーンで観てこそ価値がある。
 鑑賞後パンフレットを読んで、私は驚愕した。競技時間3分はノーカットで撮影されていたのである。幾多のNGの果てに二度の奇跡が起きたのだ。競技場全体を写すカメラと出演者達の動きを追うカメラ、2台のカメラを3分間回し続けていたのである。試合前にはシミュレーションを行い、対決する現役高専生との綿密なやり取りをし、うそのない本気の戦いを忠実に撮影する。当然ドライバーも長澤まさみ本人。スタッフの手作りによって素晴らしい瞬間が練り上げられたのである。
 古厩監督、スタッフの皆さん、素晴らしい映画をありがとう!
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