映画「リンダ リンダ リンダ」
監督:山下敦弘
脚本:向井康介 宮下和雅子 山下敦弘 編集:宮島竜治
撮影:池内義浩 美術:松尾文子 照明:大阪章夫
録音:郡弘道 音楽:ジェームス・イハ
音楽プロデューサー:北原京子 バンドプロデュース:白井良明
主題歌:「終わらない歌」(ザ・ブルーハーツ)
プロデューサー:根岸洋之 定井勇二 配給:ビターズ・エンド
主演:ペ・ドゥナ 前田亜季 香椎由宇 関根詩織/三村恭代 湯川潮音 山崎優子/甲本雅裕/松山ケンイチ 小林且弥 近藤公園 三浦誠己 小出恵介 南川ある
放課後、軽音楽部がどこかで演奏している音楽が、学校のどこにいても聞こえてくるような雰囲気に包まれていた。吹奏楽部が体育館で響かせている音に置き換えてもいい。音源はどこなんだろうかと捜すでもなく考えるでもなく校舎の中を歩いていると、やがて何を演奏しているのかはっきりしてくる。文化祭に向けて練習をしているんだ。そのうちボーカルの声も聴き取れるようになると、音楽に疎い私でも、なんか青春してるんだねーなどと自嘲半分羨望半分に思う。そんな感慨にふけった映画の冒頭である。
熊切和嘉が出てきた時も驚いたけど、山下敦弘に至っては尊敬してしまう。30前ですでに4本の劇場長編映画を監督しているんである。俊英って言葉がもっとも相応しいと素人感覚に思える監督だ。
その4本目が「リンダ リンダ リンダ」である。題名からブルーハーツを想起できるように、本作はブルーハーツを文化祭で演奏しようと七転八倒する女子高生4人の姿を描いた快作である。文化祭での演奏目前にしてギターの萌(湯川潮音)が指を負傷、キーボードのケイ(香椎由宇)がギターを代わりにやろうかという話になるも、かねてより仲たがいが絶えなかったケイとリンコ(三村恭代)がバンドの方針で対立、ついにリンコはバンドから抜けることになる。文化祭の演奏自体が危ぶまれる状況の中で、ギターのケイ・ドラムのキョウコ(前田亜季)・ペースのノゾミ(関根詩織)は数日の練習でコピーできるブルーハーツの演奏を決してボーカルを探すことになる(萌がボーカルをやるという話もあったらしいが、演じる湯川潮音の声ではブルーハーツは歌えないと判断したらしい。ブルーハーツの曲ってそんな簡単なの? 私全然わかんないんだけど、まあ面白かったからいいや)。で、たまたま三人の前を通りがかった韓国からの留学生・ソン(ペ・ドゥナ)がボーカルに選ばれて訳がわからないうちにバンド活動に巻き込まれてしまうことになる。こんなんで本当に演奏できるのか? 彼女達の熱い戦いが始まる!
といっても、この映画鑑賞の最大の目的はペ・ドゥナなわけで、本編は正直どうでも良かった。だが、この物語の発端で見せた香椎のふて腐れた態度に心を射抜かれたのも事実でして、「ローレライ」で妻夫木に甲板で犯されてるようにしか見えなかった・血を噴き出して喚いているだけの印象しかなかった香椎が心底カッコイイと思えてしまった、ジョージ朝倉が惚れたのもわかるよ。
さてしかし、熱い戦いとか書きながらも、本編は非常にさっぱりしているというか淡々としているというか、気が抜けているというか、泥臭さとは無縁のその辺の女子高生ががんばっているみたいな姿を遠くから眺めている趣で、文化祭の空気や、遠くから聞こえてくる旋律に耳を澄ますような視線があって、微笑ましくなってくる映画だった。もちろん山場はブルーハーツの演奏なんだけど、その道程に恋愛やら仲間といる楽しさやらを詰め込みつつも窮屈でなく、ふつーに物語は展開してすうっと文化祭の熱気が引いていくように物語も終幕を迎える。とりたてて強烈ではないものの、いやそれだからこそ、彼女達が本気で歌い演奏する「リンダリンダ」「終わらない歌」が克明に私の脳天に突き刺さったのである。
終始一貫している恬淡たる雰囲気は、観客の思惑をあまり刺激しない。だからこちらから映画の彼女達に歩み寄ろうとする意識が必要である。弱点があるとすればそこだろう、観客を引っ張り込む迫力がない。でも、きっかけはなんであれ一度彼女達の言動に興味が湧くともうこの映画は最高である。演奏をラストまで引っ張ることはせず、練習場面で存分に歌い奏でている姿が描かれる。段々と上手くなっていく4人、仲良くなっていく4人、文化祭物といえばお約束の深夜部室に泊り込んでの練習も気にならない。そういう姿が丁寧に積み重ねられることで、私の中に彼女達の演奏をもっと聞きたい(今さらだけど、歌・演奏は吹き替えではなく出演者自身が行っている)という欲が発酵してくるのだ、かもされてくるのだ。
そして結束していく4人。最初のソンさんがソンちゃんになって最後はソン、ソンも皆を呼び捨てるところまで親しくなる。一応主役格のペ・ドゥナの描写が一番わかりやすい。韓国からの留学生だけど、友達はいないし、文化祭では韓国の文化を紹介する展示会を催すものの誰も見学に来ない。訪ねてきたと思ったら、唯一の友達・小学生の美佐子(南川ある)だったり、見知らぬ男子生徒・マッキー(松山ケンイチ)の告白だったり(この場面笑っちゃうんだけど、ソンは今の仲間が大好きなんだってことがわかる)。
で、終盤は当然のようにすったもんだの末の演奏だ。盛り上がったねー。演出はおとなしいままだけど、私の中ではめちゃめちゃテンション高くなって熱くなったよ。劇中で何度も聞かされていたはずの「リンダリンダ」にはこっちも一緒に飛び跳ねたくなった。演奏前に雨が降ってきて、外でわいわいやってた生徒達が体育館にぞくぞくと避難してきて、その先で皆を魅了する歌声(湯川潮音)が響いてて、という観衆がたくさんやってくるご都合展開も盛り上げた要因だ。
もちろんサントラ購入。でも聞き所は湯川潮音のアカペラ、だってやっぱりプロのほうが上手いんだもん。でも魅力は4人のほうがはるかに上! また観てー。
戻る