「BANANA FISH」第18巻 初版1994年4月20日(小学館フラワーコミックス)

作者 吉田秋生



 静と動がはっきりしています。静には背景に集中線・流線がなく動にはそれがあります。
 劇中で頻繁に見られる銃撃戦は必要以上にと思えるくらいの集中線で、銃を撃った瞬間、撃たれた瞬間が強調されています。全編通して、これだけの流線を多用しているのはいささか単純な演出にも思えるのですが、ここぞという場面では、逆に動の場面で静のような描写をして読者に印象を残します。
 69頁。上段はフォツクスが銃を二発撃つ正面からの図。下段は撃たれて顔をしかめるディノとその背後で目を見開くアッシュの図。静止したような場面ですが、時間はきっちりと動いています。この場面、一般的な描き方は上段はそのままに、下段に撃たれた瞬間の絵があると思います、目を見開くのも撃たれた方で、二つの時間が並行に描かれたことでしょう。けれども、この場面は撃たれたディノが膝を崩して倒れようとしています。撃たれた直後の絵ですね。同時ではない。飛び散った血が妙にリアルでその細かな描き方が静止した印象を与えますが、時間を止めることなくゆるやかな動といった感じで動の緊迫感を維持しています。次の頁もスローモーションのような感じですが、ディノは撃たれた胸を抑えて苦しみながら倒れる寸前で、アッシュの顔が一層はっきりします。散った血がアッシュの顔にかかるという細かな演出もしていますね。
 151頁。これも下段のコマ。フォックスが頭を撃ち抜かれます。何が起きたのか、撃たれた方だけでなく読者さえもわからない、そんな絵です。次頁で3コマにわたって倒れるフォックスが描かれます。正直言うとあまり上手いとは思えませんが、それでも読者には誰がフォックスを撃ったのか・アッシュを助けたのは誰かという思いが緊迫感を維持させています。
 銃撃戦で派手に集中線・流線を使いながら重点はきっちりと読者の目を止めさせて注目させる、そういう上手さがありそうです。たとえるならばジェットコースターのような展開といえるでしょう。けして時間を止めることなくひたすら動の場面を連続する、静の場面においても動の緊迫感を忘れずにコマを構成していく。物語を一気読みさせる原動力すなわち緊張感を充分に内包している作品だと思います。

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