「キムンカムイ」第1巻から第3巻 講談社少年マガジンコミックス

作者 三枝義浩



 主人公を含む幼馴染の三人の中学生がキャンプに寄った黒土山でヒグマに襲われるサバイバル漫画が「キムンカムイ」です。
 パニック物ともいえる作品で重要な設定が、いかにして主人公たちを危地に招き、危地に留まらせるかが、重要になります。生命線とも言える設定作りに失敗すると、単なるバカな主人公たちの大騒ぎになってしまうからです。では、「キムンカムイ」はどのように設定を作っているかを検証してみましょう。
 まず、主人公の三人が舞台地なる黒土山へ出向く背景は自然です。かつて小熊とたわむれた想い出のある山にふたたび行ってみようという少年の心になんら不自然なところはありません。気になるのは、偶然その山に入った人間が多すぎる、ということですが、サバイバル作品故に多めに見ましょう。それに襲われるのが少年だけでは、助かる理由付けに苦しむでしょう(それこそ、偶然に起こった事件を重ねてしまいやすくなります)。
 それよりも大事なのは、山に閉じ込められる、という設定です。崖と高山に囲まれた中腹のキャンプ地と通じる道は、わずかにつり橋ひとつです。ヒグマに襲われて逃げる彼らを最初に絶望させるのが、つり橋の破壊です。冒頭のつり橋を渡る場面で大方予想できる展開ですので、たいした設定ではありません。劇中では、他の脱出路を探すべく川沿いを下流に向かって歩きますが、ここでお約束の崖が彼らを阻んで、逃げられない、という恐怖が支配的になります。残された道は、救助を待つことです。早速、ロッククライミングが得意な木という男がたった一本あったロープをつかって崖を降りるものの・・・。
 さて、気掛かりな点が二つあります。
 ひとつは、つり橋を壊したのは誰か、という点です。1巻の70頁で壊されたつり橋が閉じ込められた側・内側からの視点で描かれています。つり橋が壊れた原因は、この場面からでは強風によるものだろうと推測できますが、劇中で「それぐらいで壊れるか」というセリフで一蹴されます。この後、誰かの手によるものではないかという疑惑が浮上しますが、それにしても非常にあやふやです。2巻で、ヒグマと渡り合う場面でつり橋の謎がはっきりします。近藤という男は、ヒグマの注意を自分に向けさせて逃げ込む先をつり橋に求めます。ここでつり橋のロープが根元から切れていないことが描かれます。2巻137頁の4コマ目はつり橋を横からの視点で捉えています。ロープの切れた個所がここでわかります、つまり橋の中ほどで切られているということ。二つに分かれた橋は両端にぶら下がっています。人がつり橋のロープを橋の上で切ろうすれば、当然切ったあと落ちるでしょう。人が切ったと考える場合、この辺が問題です。両端のいずれかに立ってローヌ゜を切るのが一番わかりやすい方法ですから、何者かが切ったとすれば、細工をほどこした可能性が高いということです。もちろん、この作品は人間同士の争いも描いているので、つり橋が単に強風によって壊れたとあっては、互いに疑心暗鬼を起こさせることができません。そのことも踏まえて、物語がつり橋をどう処理するか、ひとつ注目していきたいです。
 もうひとつの点は、崖から降りた高木がヒグマに殺された、という事実です。このことは、劇中の人物は誰も知らないこと、読者だけが知っていることですが、これも今後どういうふうに扱うのかが気になります。というのも、ヒグマは崖を降りられる、ということを読者は知ってしまったからです。どこかに降りられる道が通じているのか、それともヒグマは人間の想像を凌ぐ跳躍力を持っているのか、そして木の死はいかにして彼らに知らされるのか。作者がどこまで考えて作品の構成を練っているのか、とても気になるところです。
 とくに二つ目の点は常に頭の隅に置いておきたい点です。物語は3巻で殺人犯を登場させていよいよ混沌としていきますが、さて、作者の腕をとくと拝見しましょう。

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