たかがサブカルの終わり 映画を語るマンガたち その2

麻生みこと「アレンとドラン」1巻

講談社 KC KISS



 マイナー映画を愛する女子大学生の主人公・林田さんが学生生活や知り合った仲間との交流を通して成長するさまを描く麻生みこと「アレンとドラン」は、語る映画の内容に彼女の表裏をなす自尊心と羞恥心を詰め込み、生きるよすがとしての映画・好きなものを好きだということの息苦しさと楽しさを描出する。
 周囲からサブカル系(笑)と馬鹿にされながらも、単館映画が鑑賞できる喜びを隠すことなく映画を観まくっている学生生活も一年が過ぎていた。やがて話せる仲間が学内などで出来ると、そのこと自体が彼女は嬉しく、相手が親ほど年の離れたおじさんであっても自宅に押し入れられそうになっても、彼女は映画について語りたおすのである。
 だが、こんな設定であっても中表紙から漂っている・そもそもはっきりと描写されている彼女の暗く俯きな表情は、その根の闇を明示し、仲間の外からはオタクと蔑まれ、内からは女として見られたり、いかに自分が映画に詳しいのかとマウントの取り合いになったり、まったく安らいでいる雰囲気がない。彼女はリンダというハンドルネームを使い、ツイッターで映画についてつぶやくのが日課になっているが、それでさえ怪しい男が寄ってくる。
 結局のところ、孤独な映画愛に浸る日々から解放されて好きなものを存分に話せるようになっても、田舎の閉塞感と変わらない日常を痛感するのである。
 それでも彼女は田舎とは異なる安らぎの場を唯一得た。隣人がバイトするバーである。
 酔った上おじさんに押し込まれそうになったところを救ってくれたイケメンの隣人もまた、だからと言って優しい言葉をかけてくるでもなく、サブカル系(笑)とやはり嘲笑するが、最悪最低の状態を見られてしまったという開き直りから、本音をだらだらといえる相手を得るのである。酒を飲むでもなく食事目的で通い始めると、イケメンとの関係構築を目論むおしゃれっ気で常連の女性に、場違いと喧嘩を吹っ掛けられても、まったく動じない。好きなことを好きなだけ語る。イケメンは全く映画のことを知らないけれども、彼女はサークルの飲み会であった事件や、ゼミ仲間と映画を観に行ってドン引かれた経験を話し、何でも一方的に話せる間柄となっていく。
 もちろん、こんな展開になれば、彼女とイケメンがいい関係になっていく雰囲気が漂ってきてもおかしくないわけだが、周囲から馬鹿にされるサブカル趣味が高じて、いや、それだけではない、彼女の容姿から設定された自分の顔を出来るだけ隠したいという髪型や服装、それでいて顕示欲や承認欲求が根深い病理のはざまで、自己評価の低さと、ひょっとしたらこれは好意なのだろうか、いやいや思い上がるなという葛藤が彼女を悩ますのだ。でも、隣人や店の常連以上の関係になれないだろうか……
 そんなことを経ながらも彼女の大学生活は順調になっていく。自分の器を測りかねていたところ、ゼミ仲間から「孤高のゆるキャラ」として認定されることで、好きな映画について語ってもキャラが許し、好きに映画を観に行って仲間と別れてもキャラが許す、そういうキャラだからという落としどころを得ることで、イケメンのバーと並ぶ居場所を得るのである。
 自宅の狭いアパートの映画鑑賞だけの世界から、彼女は少しずつ生息域を広げ、ついにはバイト仲間から告白されるまでに至るのだ。なんだよ、十分に日常を満喫してリア充しているじゃないか……
 さてしかし、客観的には友人が増え男も寄ってくるほど社交的になり世間に溶け込んでいるかのような彼女に見えても、自己評価が低いがために、どうしても上手くいかない。好きなものを好きに話すだけで、なんでこんなに気を使ってしまうのか。ありのままの自分を受け入れてーなんて甘っちょろいことを言いながらも、他人に歩み寄るつもりも全くない。だから彼女はイケメンに好かれようと努力なんてしないし言動も変えない。自己評価が低いけど自分を変える気がない・翻って自分が大好きっていう典型なんだけれども、彼女はおそらくまだ気付いていない。
 マウントの取り合いは嫌だけれども、マウント取ろうと趣味仲間と話すし、(笑)とサブカルクソと罵られても単館映画は絶対に観続ける。実に面倒くさいキャラクター、付き合いたくないし、知り合い程度にたまに趣味の話なら悪くない、そんな距離感を保ちたいキャラクターとして、個人的に捉えているけれども、やっぱりそこはヨーロッパ映画なんだと残念にも思う。あー、そっか、サブカル感を出すにはヨーロッパか。私はあまりそっちの映画は観ないし、観ても監督の名前は憶えないし、だから難易度1と難易度2しかわからないし、難易度4ってなんだよ、クソが!!って自分もキャラクター相手にマウント取ろうとしている悲しさよ。
 イケメンとの関係がどう進展するのかは読めないけれども、彼女がこれまで数々の映画で見てきただろうロマンチックな映画のような展開を思い浮かべるたびに、あの監督のあの映画みたいと映画ネタを散りばめつつ、読者は読者でそんなの知らねー!!それ知ってる!!と共感したり、そこはこの映画で例えろよといちゃもんつけつつ、やはりマウントを取る態度を崩すことはないのだ。
 で、邦画の話題はいつするんだよ、サブカルクソ女さまよ!

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