「明日はどっちだ」

講談社コミックスkiss 「校舎の裏で待ってます」収載

安斉メイ



 そりゃもうたいした作品じゃないって断言できる。拙い絵に工夫の欠けた物語展開、要はありがちな恋愛漫画の鋳型にクイズって味付けを流し込んだ丁寧と言えば聞こえはいいが、つまり期待を裏切らない範囲で王道を突き進む明快な流れに、さして引っかかるものもなく読み捨てられるような作品である。ところが時として一読者にとってはなかなか取れない棘みたいにものを脳みそに残していくことも稀にあり、それが私にとってはこの取るに足らないクイズ恋愛物とでも言える「明日はどっちだ」なのである。
 ちょっと言い過ぎたかもしれないが、まあしかし「校舎の裏で待ってます」という作品集は最初になんじゃこりゃと嘆き崩れるような落胆を誘う表題作が載っており、すっかり読む意欲をなくしかけていたところの二作品目がこれだったのである。クイズと言えば昨今もいろいろとあるけれど、一時期素人参加型の博識を本気で競い合ったクイズ番組を各テレビ局が真面目に制作し、わが番組の優勝者こそが日本一のクイズ王だと喧伝しまくりあっていたような信じられない時代が一瞬ありながらも、そんなの我関せず堂々としていた番組が「アメリカ横断ウルトラクイズ」という妖怪だった。いや、ほんとにすごかったんだよ、この番組は。後発番組が知識の量で無駄に競い合う中で、この番組はクイズを通した旅物語という画期的な舞台を用意し、結果的に人間ドキュメンタリー番組に成長したのだ。
 あの妖怪の精神をわずかに汲んだこの作品に、私は胸打たれてしまった。高校生活を陸上に懸けていた主人公リエはあっけなく足を故障し途方にくれた。そんな彼女に声をかけたのがクイズ研究会の男二人、博識を誇る眼鏡くん川瀬と天運を持つ男・小宮山、知力体力時の運、体力に欠けていた二人は彼女を賞金と副賞を餌にクイズの世界に引きずり込み、高校生クイズ大会に出場し準優勝してしまう。そのままクイズの世界に嵌ったリエに対して川瀬は実家の窮乏を見かねて就職し小宮山はマイペースにたらたらした大学生になりさがり、あの時の熱血は一体どこへってな感じで、リエは冴えない顔して大学のクイズ研究会の会長をしていた。というのが冒頭のあらすじ。リエの目標はもちろん(ウルトラクイズを想起させる)「クイズバトルロワイアル」優勝である(どういうわけか、これも三人一組で出場する。なんかもうこれで、後の展開が想像できるでしょ)。リエのクイズ研究会にはしょぼい男が二人いるんだが、こいつらは全く当てにならないという始末。はいはいここから見え見えの展開なので省略ね。
 正直、私はウルトラクイズが大好きだったのね。だからそれを思い出させてくれたこの作品にはそれなりに愛着がある。あー、でもこれ書くために再読すると、なんかもうぽろぽろと粗が落ちてきて、あの棘も喉に引っかかった魚の小骨みたく忌々しいだけになりそうなのである。っていうか悪口ばかりですまない。ネタはちゃんとクイズとして伏線にしてあるし、考えられた構成ではあるけれど、所詮手癖で描いたような絵ではね……しかも勝ち抜いていく緊張感が全然ない……こりゃクイズ物とは呼べんな。ただ、基本的に登場人物みんないい人でね、しょぼくれた男二人が会長(リエ)の心意気に触発されて、過去のクイズ番組の問題集をクイズ対策として彼女に渡すんだ、ここにね、ここが良かったんだよ。クイズ好きに悪人はいないっていう感じで。
 というわけで、作者には本気でクイズ物を改めて描いていただきたい。クイズ好きの作者だからこそ描けるものがあるはずだ、ウルトラクイズに出場し勝ち抜いた男女がその過程で恋愛して決勝で相まみえるっていうアホみたいにベタベタの話でもなんでもいい。あの緊張感をくれ、是非描いてくれ。劇画じゃ駄目なんだよ。少女漫画がもっとも相応しい体裁だと私は確信している(その後作者は「サクラノソノ」という作品を連載しているが……これもつまらなかった……がんばれ! 安斉メイ!)。

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