フランケンシュタイナー

小学館 ビッグコミックス IKKI

稲光伸二


 いきなり「どーん」である。正確には「ゴオオオ」だが、「遅いんじゃボケー」の擬音が「ざぱーん」ときたもんだ、映画かなんかの見過ぎじゃないのかと突っ込みたくなるような冒頭の数頁に笑った。こういうことを初っ端からやってくれると大変ありがたい、ああ、これはこういう漫画なんだなと。つまりキャラクターの設定全部いっちゃってる破天荒な物語なんだとあっさり理解できるし、その後どんなに無茶な展開になろうが、「どーん」と「ゴオオオ」で強引に物語を進めるに違いないと想像できるからである。で、実際「どーん」という擬音がよく出てきて、作者がその場面を描いているときの気合の入り方とか、多分想像されているだろうBGMは太鼓の音とか好きな映画のあの曲とか、なんか作品外の様子を思い浮かべてまたおかしいのである。冒頭からして随分と疾走感出していながら、それを運転している男の顔ときたらいたって普通……まあ、そういう男なんだけど、画面の迫力と正反対の表情を平気で描いてしまう作者の図太さに結構期待してしまったのである。
 肝心の物語だが、帯の文句がすべて。壮絶な父娘喧嘩、これだけ。全1巻約240頁には叫びまくる娘・美矢がひたすら暴れまくり、大ゴマにほぼ全身描いて擬音を前面に決めのポーズの連続、歌舞伎と見紛う見得の世界がどかどかと放り込まれて圧倒されてしまうわけではないが、そうやって描かれた作品になんか愛着がわいてくるから面白い。単刀直入にいえばほとんど演出が空回りしているだけなんだけど、その空回り感覚が妙におかしいのだ。決してこの作品と作者を貶めているわけではないことを断っておく、私は一読してこの作品にたびたび描かれる「ドン!」「バン!」「ゴゴゴゴ」が好きなのである、絶対に作者の中では決められた効果音がこれらの場面に埋め込まれているはずだが、そんな精神まで描く力量はなく、それでも執拗にそんな演出をやられると、これはもうすでにして個性というには物足りない、芸というには芸がない、そうまさに福本的「ざわざわ」なのである。とりあえず「ざわざわ……」、福本作品のファンならずとも何か次にくることをわからせ同時に緊張感を盛り上げる実に簡潔な演出、それに匹敵しそうな演出力を稲光伸二は持っているのだ(と信じたい)。あとは「グニャリ」があればいうことなしだが、そこまで求めるのは酷だろうし、作者にそんな気は全くないだろう、どたばたアクション痛快娯楽物がこの作品であるからして、作者もそういう方向がすきなのだろう。
 残念なところは、結構な頁数を費やしながらも、その要たる父娘の格闘場面がなんともこじんまりした殴り合いになってしまったことである。連載ゆえの制限があったのだろうか、打ち切りだろうか。惜しい、実に惜しい。理事会乗っ取り場面の法律を盾にした舌戦は読み応えあって、次の直接対決は町のひとつ二つ壊してしまいかねないようなどでかい喧嘩になると予感していただけに、肩透かし食らった。これじゃあただのハッタリ漫画なんだよなー、いい加減なキャラづくり・舞台設定の適当さとか負の要素はいろいろあるけれど、そういうものを吹き飛ばす魅力を主人公は持っていたんだが、結局「バン」「おそいんじゃボケー」で終わりだもんな。もったいないとしかいえない読後感。


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