「苛立ちの理由」
高橋しん「最終兵器彼女」第3巻 小学館ビッグスピリッツコミックス
どこが面白いのかわからないままにとりあえず読んでいる作品の一つがこれである。つまんないのか? と問われれば、戸惑いつつ面白いと答えるけれども、判然としない苛立ちというか憤り(ちゃちな感情だが)が常につきまとっていて、今回それを象徴する場面に出会いやっと言葉に出来たので語ってみる。
第1巻巻末の作者の言葉から映画を意識した物語作りに努めているらしいことがうかがえ、実際にそのような構成も見られる。その巧拙は知らず、件の場面は87頁から104頁である。第5章「この星で」の第1話、内容は物語の核となる恋愛話を補強する上で重要だが、さて。
主な登場人物は自衛隊員のテツとナカムラで、二人の会話から話が成り立っている。92頁で瀕死のナカムラが登場し、テツは次頁で銃を抜いてナカムラの頭に突きつける。理由は前のリョウヘーとのやりとりから推測できよう。でも、テツは話し掛けられて撃たない、撃てない。この時点で、しめ方は空か殺風景な景色に銃声を轟かせるんだろうな、という予測がついてしまうわけだが、ここからの展開がなんとも言えなく、コントのようなのだ。
まず、しゃべりすぎなのは大目に見るとして、2頁にわたって延々語り続けたナカムラが95頁でいよいよコマが黒くなって息を引き取ると思いきや、96頁で「恋がしたい」と蘇生し、またコマが黒くなって声もか細くなり……と思ったら今度はテツの軽いポケに付き合ってしまう。ベタと吹き出しだけのコマは要するにナカムラの意識だと思っていたが、どうもそうではないらしい。一体どういう意図による演出なのか私には理解できない。一番こけたのは97・98頁である。血で目が見えなくなったような状況に至って「……」となればついに臨終だろうと思って頁をめくれば白っぽい画面にナカムラの呟き……また蘇生する。いや、次の頁で死んでいればまだ我慢できたろう、というのも場面の背景が夜明け前だからだ。白くなった画面も朝日に照らされたとこちらで解釈したのに、次頁3コマ目からまた同じ手法でコマが黒くなる。
ここまで読み進めてしまうと呆れ半分というのが正直な感想である。結局のところ銃の登場は、テツがそれを撃つまでナカムラは死にません、という宣言であり、それまで二人の会話にお付き合いくださいまし、という作者の囁きだろう。では、この場面でもっとも重要なセリフはなにか? 作者にとってはほとんど全部だろうが、読者にとっては「恋がしたい」という叫びに尽きる。物語のいろいろな説明は今後語られないとも限らないが、ここまでの流れでは、どのような戦争が行われているか設定されていない。もちろん、何もかも説明しろだなんて野暮なことは言わないけれども、あまりに不必要な・冗長でくどい描写を続けられてしまうと、本当に映画を意識した物語にしたいのか疑問だ。少ない情報量でいかに多くを語れるかが作家の力量だと思っていたのだが。
100頁でやっと事切れそうに「痛い痛い」とうめきはじめて、テツも心を決める(これは他の兵士に対してやってきたことなのかもしれない、最初は迷わずこめかみに銃をあてているから、遺品を集めるついでにやってたのかな。だとしたらテツの複雑な心中も察し得ようが、それをほのめかす描写はなく、あくまで私の憶測である。あるいは後に詳細を語るのか?)。そしてナカムラは白み始めた虚空に向かって両手を差し伸べるのだが、このときすでに右手中指についていたちせのプリクラを紛失し、あのボケはなんだったんだ? と、こちらの思考まで白けさせてお約束の場面に及ぶのである、「タン」。(プリクラも後にテツが持って現れれば問題ないが……)。
緊張感のかけらもない。あるのはやりきれなさ、それもナカムラの無力感に対してではなく作者自身への軽薄な描写に向けられてしまう。この期に及んでまだ滑稽に演じさせてしまうのだから、主題のひとつであろう「切なさ」さえ掻き消えてしまう。死にゆく者の切なさを相殺する態度とは何事か。本気で恋愛を真正面から描く気があるのかと懐疑心を刺激される。いや、多分ない。真剣になれないのだろう。たとえ真面目になったとしても長続きしない精神力の弱さは、作者が単行本に加筆している点からもうかがえる。巻末の「描き足した」という言葉に、全く逆の事をしてどうすんねんと突っ込んでしまった。描き直せよ。
などと愚痴を言いながら、おそらく完結するまでこの作品に付き合っていくのだろう。泣きたいのはこっちのほうだよ。――ああ、まだ、期待をしている。
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