「だがしかし」1〜2巻 2巻と言ったら

「だがしかし」1〜2巻

小学館 少年サンデーコミックス

コトヤマ



 なんかペンギン村を思い出すような懐かしさに惹かれる田舎町を舞台に、毎回8ページという掌編の中で、ひとつの駄菓子を紹介がてら、駄菓子屋の跡継ぎを父から嘱望される主人公のココノツ少年と、父に協力するお菓子会社のご令嬢ほたるのドタバタを中心に描きながら、永遠の夏休みを満喫しているギャグマンガが「だがしかし」である(ペンギン村と言っても、喫茶店がソラマメならぬエンドウ(マメ)ってだけなんだけど……古いネタですんません)。
 本作のコメディリリーフにして狂言回しとも言えるほたるが物語の牽引役であることに異論はあるまい。美人な彼女のおしとやかそうな容貌からは想起できない、突拍子もないアクションによる登場場面を出落ちにしつつ、翻弄されるココノツと思いがけず披露される駄菓子の薀蓄は、掌編ゆえのテンポのよさと小気味よさによって飽きることがない。回によっては駄菓子の紹介だけでほとんど終わってしまうこともあるんだけれども、学校帰りに友達と駄菓子屋に寄って云々という思い出も特にない自分には、毎回、こんなお菓子がホントにあるのかという驚きの連続である。「わくわくスマートフォン」って最近出来たお菓子だろうし、今も新商品が生み出され続けているんだろう。もちろん有名な「うまい棒」や、「ねるねるねるね」のようにCMで流れるような菓子も扱う回があるけど、駄菓子についてのわずかな記憶からでも容易に想像できる口の中に広がる濃い味付けには、つばきを抑えがたい。
 けれども、この作品が根本的にギャグマンガとして機能している大きな要因は、なんといってもキャラクターの名前だろう。2巻現在、その数はまだ数が少ないものの、九代目だからココノツ、父が八代目だからヨウ、幼馴染のエンドウ豆(トウ)とサヤの兄妹。古典的ともいえる安易なネーミングセンスは、駄菓子をひっくり返しただけだろうココノツの苗字のシカダ(鹿田)にも通じている(そもそもタイトルからして……。いや、それはともかく他にスーパーの名前が「ぱーすー」だったり。枝垂ほたるは何だろう……仙台にある駄菓子屋の石橋屋が枝垂桜で有名とグーグルさんが教えてくれたけど、だとしたら枝垂さくらって名前にしそうだよなぁ。1巻の地図も仙台の七ヶ浜っぽいけど、根拠のない余談ということで、まあ、それはともかく)。
 この名前のセンスという点に関する単純すぎる・いい加減な一貫性は、すべからく駄菓子のそれに通じている。ほたるの駄菓子解説には、その名前の由来も含まれ、ラムネがレモネードからという有名なものから、見たまんまのものや、ひねり過ぎて意味不明なもの、キャベツ太郎など何故「太郎」が付くのか不可解なもの……。あるいは包装袋に描かれた謎のキャラクターを探る洞察……これもコメディとして機能しているんだが、掌編にあらん限りのネタを放り込んでくる、もったいぶらない作風には潔ささえ感じてしまう。
 さてしかし、こうしたいい加減さを装いながらも、物語の構成は緻密を極める。
 掌編の構成の基本となるのが起承転結である(個人的に物語における起承転結に拘泥する必要は全く感じていないが、基本であることに変わりはないし、やはりその効果は本作でも発揮されている。これは、冬コミのドラえもん考察で書いたことと重複する)が、第20話「セブンネオン」を例にすると、扉(1頁目)の次の2頁目で今回の舞台の場所を喫茶店「エンドウ」であることを説明し、物語の発端である・カードゲームに興じるココノツと豆の対話を描写し、それを傍から見ているサヤとほたるが描かれると、ほたるがサヤにコーヒーを2つ注文する。「2つ?」、これが転である。ほたるはコーヒーをサヤと飲みながら、女子トークを提案するわけだ。
 3頁目の転は、ほたるがサヤにココノツをどう思っているか質問する場面。ココノツに気があるサヤの焦り具合も息つく暇なく次頁への期待を煽る。4頁目で「セブンネオン」がいよいよ登場し、5頁目はそれを食べる場面でがっかりするほたる、6頁目でサヤの新たな食べ方に「ニヤリ」とするほたる、7頁目でほたるも想定外の驚き方でサヤの興奮に気圧される、そしてオチとなる8頁目。
 各頁に小さな起承転結を用意しているわけだ。本編7頁のすべてに導入と意外な展開にオチとそこから次頁に興味惹かれるめくり効果が構成され、物語にスピード感を与えている。
 とまあ、そんな小理屈はどうでもいいのが正直なところで、実際はほたる可愛い・可笑しい(頭が)、というのやっぱり一番大きな物語の推進力なのである。駄菓子を紹介するときの大仰なポーズの数々、個人的に「味カレー」のポーズが意味なく馬鹿馬鹿しくも可愛らしく、お気に入りである。また、めんこやけん玉に才能を発揮するサヤのあどけなさもまた魅力の一つであり、いつまでも続く夏休みに安心しながら、次はどんな(頭が)可笑しいほたるが見られるのか、次巻が待ち遠しい。
(2015.3.23)

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