アサイ「木根さんの1人でキネマ」1巻
白泉社 ジェッツコミックス
映画は映画館で観るのが当たり前でしょ
小さな頃から映画は一人で見るのが当たり前だったので、長じて観たい映画があるのに一緒に観に行く相手がいないと嘆く人々を不思議に思っていた。ドラえもんをはじめとしたアニメ映画がほとんどだったけれども、今もって、一人で映画鑑賞することが、何かまだ後ろめたい・恥ずかしい気持ちにさせてしまうと思うことが信じられない。
とは言っても、私が若い頃は「木根さんの1人でキネマ」の主人公である木根さんのように痛々しい映画ファンではなく、マンガ好きだった青少年期の私にとっては、むしろ中学時代のクラスメイトだった熱狂的な映画ファンを思い起こす。
彼は昔の映画から最近の映画までを手広くカバーし、気まぐれに年に数本しか観ない私にとって、木根さんのように押し付けがましく映画を薦めてくる鬱陶しい存在であると同時に、それだけの知識を誇るに足る鑑賞数は尊敬に値した。今となっては、その知識も高が知れているのだけれども、金がない学生時代にとって、映画はやはり金のかかる趣味なのだが、彼がおすすめ映画を一覧にし、そのあらすじや監督の名などを熱心に記したノートを持ってきたときには、ドン引きした。ごめんなさい。その頃の私は映画にさして興味なかったのだ。
さてしかし、三十台の独身女性と言う設定と一人で映画を観に行く行動力が、果たしてキャラ立ちとして成立するのかと問われると甚だ疑問である。もちろん、彼女の映画ファンあるあるネタに首肯すること多く、当人が無意識に聞く「最近、面白い映画ってなに?」という素朴だけれども凶器に近い質問や、興味ないのにとりあえず聞いてみました感ありまくりの「どんな映画が好きですか」という類には、苦笑いしつつ、どうせ言ってもわからないという失望感が先立ち、それでもいざ言ってみたところで、やっぱり知らないんだから、木根さんの気苦労は共感することしきりである。
かように本作の木根さんには共感するところも多かれど、彼女の艶やかな肉体を萌え要素に、映画の薀蓄を語る姿はやはり滑稽である。なるほど、彼女は映画について確かにいろいろと知識が豊富のようだ。「ゾンビ映画」の回の解説は、それに興味のない私にも楽しく読めた。「28日後...」ネタをネームに展開されたその回では、走るゾンビと歩くゾンビの導入部から、そういやそうだなぁ、「バイオハザード」からゾンビ映画はホラー要素からアクション要素っぽくなったよなーと思いを馳せつつ、「28日後...」の続編が「28週後...」なんだよなぁとか、懐かしみながら、亜流映画のつまらなさに同意しつつ、肝心の邦画に触れないのは何故だろうとも思わなくはない。
木根さんで採り上げられる映画はハリウッドの超メジャー映画ばかりだ。もちろん、のっけからマイナーなところを持ってきたところで、誰も共感できない要素だしネタにしても笑いどころがわからないのだから致し方ないとは言え、邦画はいつ採り上げるんだと読み進めてみても、彼女は洋画しかタイトルを言わねぇもんだから、あっ、こいつ敵だ、と思ってしまった。
そりゃあ確かに木根さんがおっしゃるとおり「2時間かけてゆっくり死んでいく」ヒロインとやたらと「デカすぎるBGM」と大げさな演技で感動の押し売り映画ばかりの邦画と言えども、木根さんが食いつきそうな映画は日本にだってあるんだい!
映画ファンと一口に言っても洋画派と邦画派に大きく分かれ、邦画派の私から観ても、メジャータイトルの邦画のほとんどは糞だと言っても過言ではない。去年の日本アカデミー賞のノミネート作品なんて「永遠の0」(笑)とか「ふしぎな岬の物語」(笑)とか挙げちゃう体たらくだよ。アニメ部門なんて「BUDHA2 手塚治虫のブッダ-終わりなき旅」(笑)とか「STAND BY ME ドラえもん」(笑)だもん、観る目がない以前に、そもそも映画観てないのがバレバレじゃねーか。だから映画ファンから総すかん食らうくらいに権威ががた落ちしてんだよ。まあそれはともかく、単館系で面白い良作がたくさんある中、それでもあえて地雷を踏みに行くのは、地元ではそれしかやってねーから、という地理的事情もあるが、そんな糞の中にも、もんのすごい面白い映画がたまーにあるんだよ、という気分が最高なのである。木根さんがそれを「インディー・ジョーンズ」の宝探しに喩えるのは無理があるような気がしないでもないが、邦画派の私でも観たことあるタイトルが並べられる程度に、木根さんのセレクトはメジャー作品ばかりである。
いや、それを否定するつもりではない。それを足がかりに、取って置きの面白い映画の薀蓄を鬱陶しく同居人の水城あらため佐藤に語る様子は、想像するだけで楽しそうだし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の回のやりとりは、本作の白眉と言っても過言ではない面白さである。
映画ファンあるあるネタよりも、日常生活の中から映画について触れる作劇のほうがネタも回しやすいし、長く描けると思うので、今後も百合っぽく艶っぽく、そして鬱陶しく映画について語った欲しい作品だ。
それにつけても「スター・ウォーズ」の回は大笑いしてしまった。ネタバレから逃れようと七転八倒する木根さん。私はもともと興味がないけれども、なんか話題だし、とりあえず観とけって感じで観たけれども、旧三部作も新三部作も、今回の三部作も、懲りずに親子喧嘩かよって言ってしまうのは乱暴なのだろうか。っていうか、新三部作は駄作だろ、あれ。1と2は我慢して観たけど、もうあほらしくて3は観なかったよ。ごめんなさい。だって、つまんねーんだもん。だから「スター・ウォーズ」って何から観ればいいですかって質問には、はっきりと答えられる。
「観なくていいです」
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