「ゆらゆら」
初出「キューティ・コミックス」1997年12月号、1998年9月号、10月号、11月号
南Q太
第一話 どうして下ばかり向いているんだろう。主人公・浜子って3年付き合っていた彼に振られなくても、いつもうなだれて、どことなくなんとなく生きていたような気がする。やけ酒飲んだといっても缶ビール5本で煙草も先っぽ焦がしただけですぐに消してしまう、一見落ち着いた女性なんだけど、なんか焦っていてそわそわしている感じだし。彼氏に振られておまけに寒く、人肌恋しさに勤め先の花屋の店長と誘われるままに関係持ってしまって、まったく熱のない不倫を自覚なしにしていて、こいつ、なにが楽しくて生きているんだろう、このまんま関係続けてぼーっと店長と付き合って行くのかな、それとも店長の奥さん出てきて修羅場がやってくるのかな、といった気配はまったくない。元彼の新しい恋人に嫉妬するでもなくだらだらと、だからといって楽しければいいといった諦念もないし、とりあえず寒いから・・・。浜子・22歳の冬は暖かければよかったのか? いやいや、そんな時期は誰にでもあるものですよ。なんか物足りない日常に対する漠然とした焦慮というか不安というか、正体のわからない未来っていう闇の怪物。そいつはひょっとしたら、とてもかわいいものかもしれないけれど、真っ暗闇の中を一人で歩く勇気はまだないのだ。手をつないで一緒にいてくれる人が40過ぎのおっさんでも、とりあえず、今はいいのだ、これで。だって元の彼氏のことなんて、いつのまにか忘れていたんだから。
第二話 でもやっぱりつまらない。だからといってそのまま動かずにいたんじゃなにも始まらないから、とりあえず歩いてみようかな。最初の一歩がおっさんのプロポーズだって、うれしいものはうれしいのだ。でも何か違うような気がするのは、おっさんが妻子持ちだってこととは無関係だと思う。前に進みたいんだよ、なんでもいいから。でも店長は今の関係を維持しているだけなんだね。なじみのラーメン屋に勤める佐古君は、あるいは、と思わせてくれる感じいい人だったから一緒に映画を観たんだ。でも、彼は浜子と同じような、なんか焦りを隠している青年だった。自分と同じじゃつまらない、ただでさえつまらない自分に飽き飽きしているのに、これ以上自分を知りたくなんかない。だからって店長か? おっさんはどう考えているんだろう、浜子との関係を。今のままの関係でいいのかよ、奥さんが相手してくれないから、近くにいる女性だったら誰でもよかったような気がする。それがたまたま浜子だった、のかな。だから、とにかく未来に進みたいのだ、「一緒に暮らしたいな」という浜子の呟きを侮ってはならない。おっさんみたく保守的じゃないのだよ、浜子は。「別れよう、店長」。だって、もう春だからね、暖かくなったんだ。
第三話 歩いてみたけど、冴えない表情。やけくそって感じがどこかあって、でも立ち止まっちゃうのが今では怖くなってしまった。なんだか自転車操業みたく不安から逃れている、それがだらだら生きるってことかもしれない。別れられなかった店長にも、不倫をしている自覚ないし、恋愛している自覚もないような頼りなさ。代わりにやってきたのは友達・むつみの修羅場だったわけだ。浜子と違って不倫を自覚しているむつみは奥さんとの対決に浜子を連れて行く、一人じゃ不安だから。浜子は、とりあえずむつみの味方をするけれど、奥さんの友達だったら奥さんの味方だったと思うよ。問題なのは、男でしょ。でも、二人の女は今の関係を壊したくないために躍起になって怒鳴ってみたり睨んでみたり凄んでみたりしていて、進歩しないのだ。「変だ」と思う浜子が当然だ、だって、毎日繰り返される日常を意地でも動かそうとしない無神経さがあるから。浜子は動かそうとした、二度目の別れ話はまたも失敗したけれど、今のままでは駄目だって直観で気付いている。やっと踏み出した一歩を無駄にしないために、怖いけど、歩いていこう・・・。でも、それって本当かな、ほら、まわりを見てご覧、みんな同じ方向に歩いているよ・・・いや、流されているよ、だらだらと。道を変えたいね、こういう時は。佐古君も変えたがっているいるけど、一人じゃ不安だ、だって、自分はこれだけのことをしたぞっ自慢できる相手がいないからね。今の浜子に出来ること、それは。
第四話 店長と別れること。つきまとわれちゃうるさいし目障りだし、なによりうざったいから、別れよう。現状に満足している「子供」なんて相手にせず、まずは自分を見詰めよう。そうして自分の道をしっかり見据えるために立ち止まって周囲を眺めてみよう。そう、道は地面にあるとは限らない、ひょっとしたら、空にゆらゆらと漂っているかもしれない。その不安定な道は、ちょっと油断するとすぐに転んで落ちてしまう「理想」とか「夢」とか言う道かもね。だから、四年後の佐古君との再会はとても自然。二人ともゆっくりゆっくり歩いてきて、だって「ゆらゆら」には急がずゆっくりという意味もあるから、揺れているだけじゃないんだよ。なんとなく、真っ暗な未来にちょっと光が見えた気がするのは、結末の潔さに好感を持ったから。
ゆらゆらと 遠回りする あやめかな
・・・おそまつでした。
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